人間の運命

『異端の人間学五木寛之 佐藤優

 佐藤 せっかくソ連兵の話が出てきたので、本を一冊紹介させてください。ノーベル賞作家ショーロホフ(一九〇五~一九八四)の『人間の運命』です。私はこの本を中学生のときから何度も読んできて、ロシア人のものの考え方や感覚を知るためにはうってつけじゃないかと思うんです。
 主人公のアンドレイは、第二次大戦時に出征し、ドイツ軍の捕虜になってしまう。隙を見てナチス・ドイツの収容所から脱走し、帰還しますが、戻ってみると妻も子供もドイツ軍の爆撃によって死んでしまっている。赤軍の将校になった息子も最後は戦死して、結局、アンドレイ一人しか生き残らない。
 戦後、アンドレイはトラックの運転手をしながらすさんだ生活を送るんですけど、ある日、カフェ、日本語では喫茶店と訳されることが多いのですが、酒も出る軽食堂といった感じですが、その隅に座っている戦災孤児を見つけて、「俺は――お前の父さんだよ」とうそをついて保護するんです。(p27)