イデオロギー的敵対

『ナチズムの歴史思想』フランク=ロタール・クロル

 一九一七年に始まる全体主義的支配形態の時代には、政治的対立は、イデオロギーに倦んだ十九世紀よりももっと強く、イデオロギー的敵対の存在から説明される傾向があった。理念は、近世初期の宗教戦争終結以来、たしかに先例のない仕方で、現実の歴史を刻印する要因となった。すなわち、理念は具体的な政治的決定過程を圧倒的に規定しただけではなく、国家の行動を過大に意味づけて正当化することにたえず役だち、さらに流血の対立にまで行き着く「世界観闘争」にしばしば決定的な刺激を与えてきた。二十世紀における政治的生活のこの強いイデオロギー化にかんがみて、世界戦争の時代を意識的に理念史的な手法で分析することはぜひとも必要だと思われる。しかしながら、驚くべきことに、そうした分析はいまだ十分に学問的希少価値をもっているのである。
 この確認は、二十世紀における――ボリシェヴィズムとならんで――第二の全体主義的理念運動であるナチズムをみるとき、いっそう当てはまる。イデオロギー的な敵方、つまり、この間に同じく歴史的考察の対象になった現象であるマルクス主義の研究においては、理念史的な考察方法に基づく問題の取り扱いは、すでに早くから自明のことであり、さまざまな精神科学的な努力が払われてきている。他方、ナチズムの諸問題・諸現象に歴史学的接近を試みる際には、理念史的な方法は、好んでとられる手法では明らかになく、それどころか各方面に承認された手法ですらない。理念史的方法は、それがそもそも取り入れられたとして、たいていは第三帝国の前史を考察する場合にのみ、つまり狭義・広義でのヒトラーの精神的先駆者を眺める場合にのみ、多様な歴史学的方法の一つに属しているにすぎない。…
 このような実情は、既成の歴史研究内部では理念史的なテーマ設定が一般的にむしろ低く評価されていることにその原因があろうが、ナチズムと第三帝国の歴史において「イデオロギー」という要素が占める重要な位置と矛盾している。この事実は、そうした研究史上の欠損状況を埋めようと試みるのに十分なきっかけだと言わねばならない。(p15)