BSE(牛海綿状脳症)の問いかけるもの

『すこやかに生きる暮らしの科学』坂下栄

 イギリスでBSE(牛海綿状脳症)、いわゆる狂牛病が発生したのは、1985年のことです。すでに十数年も前になるわけですが、テレビで盛んに放映されたのがヨロヨロと倒れてしまう牛の姿でした。(p164)


 BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy)は、そもそもはスクレイピー(羊海綿状脳症)というヒツジの病気で、18世紀からその存在は知られていました。ヒツジを改良するため交配を繰り返したことによって広がったとされていて、特に発生が多いのがイギリスでした。かつては異種へは伝染しない病気といわれていましたが、ヒツジの内臓、骨髄、神経などを原料にした加工タンパク質をウシに食べさせたため感染し、種を超えて感染することも明らかになりました。(p165)


 原因は遺伝子をもたないプリオンという変質タンパク質といわれます。変異プリオンが体内に入ると、未消化のままで腸まで届いて吸収され脳に到達してしまうといわれています。こうしてとりこまれた変異プリオンは、本来、動物の脳(神経細胞)がもっている正常のプリオンを次々に変異させてしまうのです。このような作用は、ごくわずかの変異プリオンによってひきおこされます。感染した脳をわずか1g食べただけでも、ウシの脳・神経細胞は冒されて死んでしまうといわれます。(p165)


 BSEは感染してもすぐには発症しません。潜伏期間は、ウシの場合で2年から8年といわれます。日本でBSEのウシが確認されたということは、すでに数年前には感染したということです。また、感染したウシと同じエサ(肉骨粉)を食べた他のウシが存在するということで、その肉が食肉となってヒトの口に入ってしまった可能性もあります。
 ヒトへの感染についてはまだ十分な証明はありませんが、新変異型CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病=ヒト・スポンジ脳症)はBSEの牛肉を食べた人が感染したものと考えられています。これまでBSEが18万頭以上もでたイギリスでは、新変異型CJDに100人以上が感染したと報告されています。しかしヒトでの感染を調べるのは大変困難で、亡くなってからでないと脳の状態を観察することはできません。ヒトの潜伏期間は9年から20年、30年以上の場合もあるのです。
 ヒト・スポンジ脳症は昔からありましたが、患者数が少ないこと、老人におこっていただけでした。しかし新変異型は、若年層の患者が多いことが特徴的です。消化吸収能力が弱い幼い子どもは、タンパク質をそのまま吸収してしまうこともあり、大人以上に影響が心配されます。(p166)


 BSEが発生した根本的原因は、本来草食動物である牛に共食い的な処置をしたことにあります。目的は、栄養価の高い牛肉骨粉を与えることで成長を促進させたり、乳脂肪率を上げることです。つまり成長ホルモン剤抗生物質投与等と同様で、生産効率、経済優先がひきおこした構造的な問題といえるでしょう。(p167)