メディアからリンチを受けた生物学者

モンサント』マリー=モニク・ロバン

 二〇〇六年一〇月の日曜日、いつもなら三万人の学生と二〇〇〇人の教員であふれる広大なキャンパスは閑散としていた。そこに一台の警察車両が幽霊のようにうろついている。「私のせいでしょう」とイグナシオ・チャペラは私に言った。「例の事件の後、私はずっと監視されています。とくにカメラマンと一緒にいる時には……」。私が信じられない様子でいると、彼はこう言った、「証拠が必要ですか? それならお見せしましょう!」。私たちは車に乗り込み、サンフランシスコ湾が見える小高い丘へとやってきた。見晴らし台のほうに進んでいくと、先ほどの警察車両が道路の脇に停まっていることに気がついた。この車両は、インタビューの間も、そこにずっと停車していたのだ……。(p376)


 イグナシオ・チャペラは話した。「まず、私たちの論文がバイオテクノロジーを無条件に推進する人々の怒りを買った理由を知っておかなければなりません。この論文は二つの真実を明らかにしました。一つめの真実は、遺伝子汚染が起こっているという事実です。このことについては誰も驚きませんでした。……
 ところが、私たちの研究が示した二つめの真実は、モンサントとその一味にとって、かなり厄介なものだったのです。遺伝子組み換えDNAの断片がどこにあるのかを調べているうちに、私たちは、それらの断片はまったく無秩序な仕方で、植物遺伝子内のバラバラな場所に組み込まれていることを確認しました。この事実が明らかにしているのは、GMO業者が主張することとは反対に、遺伝子組み換え技術は不安定だということです。ひとたびGMOが別の植物と交雑すると、GMOの組み換えられた遺伝子は、その植物のゲノムの中に制御不可能な仕方で散らばり、書き込まれるということですから。私たちの技術は未熟であり、私たちはこの現象を評価するだけの専門知識を欠いている、とまで言われたのです」
 二〇〇二年三月の『サイエンス』誌は、「組み換え遺伝子が不安定である」という事実は「深刻な帰結」をもたらす、と書いている。「ある遺伝子の挙動がゲノムにおける位置によって決まるとしたら、本来の位置から外れた場所に組み込まれたDNAは、予想不可能な結果を引き起こす可能性があるからだ」。その三か月後に『イースト・ベイ・エクスプレス』誌のジャーナリストは、さらに付け加えて、こう述べる。「そうであれば、遺伝子操作が安全で確実な科学であるという根本前提が覆ることになる」。(p378)


 「いったい、どのような人々から攻撃を受けたのですか?」と、私はイグナシオ・チャペラに質問した。「二つのグループからです。一つはバークレー校の同僚たちです。一九八八年に私の所属先である生物学部がノバルティス=シンジェンタ社――私の昔の雇用主ですが――と二五〇〇万ドルの契約を結ぼうとした時、私は彼らと対立したことがありました。それは五年間の契約で、私たちが発見した事柄の三分の一について、その特許を自由に取得する権利をこの会社に認めるというものでした。このことが原因で、バークレー校に二つのグループができ、両者の科学観が対立することになりました。片方は、私のように科学が利害から独立したものであると考える人たちでした。もう一方は、資金を手に入れるためには魂を売ってもかまわないと考える人たちでした……」(p379)