ターンソル教授

『なぜ遺伝子組み換え作物に反対なのか』ジャック・テスタール

 望んでもいないのに将来的に遺伝子を組み換えた「未確認物体」の消費者になる国民は、「これを食べても本当に大丈夫なのだろうか」という疑問を抱いている。GMOに反対する活動家たちに共通する思いは、遺伝子組み換え食品の安全性に関する不安である。
 議論を重ねても、疑問はいつも棚上げにされてきた。つまり、遺伝子組み換え作物の有害性に関する疑問よりも、なぜ彼らはわれわれに遺伝子組み換え作物を押し付けようとするのか、という疑問である。われわれは、そのことを繰り返し問うてきた。それに対して彼らは、「科学は万能であり、最適な遺伝子を利用すれば、遺伝子組み換え作物を開発できる。それらの作物は、塩分を含んだ沿岸部や砂漠でも栽培可能だ」という見通しを掲げてきた。
 もっとも、これと似たような話は、一九六〇年代半ばに制作された映画『タンタンと水色のオレンジ』に登場するターンソル教授が語った夢とそっくりだ。ターンソル教授は、次のように説明した。「十年後には、水色のオレンジだけでなく、人類の暮らしにとって必要不可欠な作物が、砂漠で栽培できるようになるだろう(……)」。〔タンタンとターンソル教授は、世界の食糧問題を解決する「水色のオレンジ」を手に入れた。このオレンジはオレンジの栽培に革命をもたらすはずだった。ところが、これを何者かに盗まれた。タンタンはさまざまな事件に巻き込まれながらも、これを取り戻すというストーリー〕
 だが、ターンソル教授気取りの現代の科学者に対する世間の大きな期待は、裏切られたのではないだろうか。たとえば、彼らはわれわれに「ワクチン内蔵バナナ」が開発されると請け合った。これを真に受けたわれわれは、その試みを心の中で応援し、それを信じない時代遅れの環境主義者の足元に、そのバナナの皮を投げつけてやろうと思っていたのだ。また、彼らは人間の生命に不可欠なビタミンAをもたらす「黄金の米」が開発されるという約束も掲げたが、ビタミンA不足を解消するためには、この米を毎日数キログラムも食べなければならないというではないか。
 特許を取得した作物を使って人類を救済しようとする慈善家のみなさん、「今日、あなたがたが本当にできることは何なのか」、頼むから教えてくれ。それらの約束を実現するためにあなたがたが実験室で行なっている「寄せ集めのやっつけ作業」を邪魔する者は誰もいないから、研究の実情を明らかにしてくれ。
 国民の中には、これまでのあなたがたの約束に免疫のない人々もいる。すなわち、世界人口の増加に備え、たとえ塩分を含んだ土地、乾燥地、化学肥料によって痩せてしまった農地であっても、GMOを導入すれば作物の生産量が増加するという約束だ。こうした約束に加え、GMOによって、より品質の高い、均質で、表面に傷のない作物ができると、あなたがたは、われわれに約束したではないか。挫折した科学技術に関する最大の驚きは、それらの失敗した技術が世間に出回ったのは、プロパガンダの暴走によるものだということだ。(p10)