乾燥温度45℃

『奇跡の杉』船瀬俊介

 木材乾燥のプロたちに次に衝撃を与えたのは、その乾燥温度の低さだ。
 その温度は、45℃――。
 「低温と聞いたから60~70℃くらいかと思った。45℃!? ほんとかい?」
 だれもが耳を疑い聞き返す。
 木材乾燥業界は、いまや高温蒸気乾燥が常識だ。温度を上げれば上げるほど速く乾く――。これが木材乾燥の”基本理論”となっている。上げるのが”常識”。下げるのは”非常識”の極み。
 「なぜ45℃にしたんですか?」
 伊藤さんに聞くと、ニッコリ微笑んでこう答えた。
 「だって木は生きているんだから、自然界にある温度でなきゃかわいそうでしょ」
 やはり、ここでも木への慈愛に満ちている。
 伊藤さんも50℃、40℃と試行錯誤を繰り返して、45℃がちょうどよく乾くという結論に到達した。
 「高い温度では木がかわいそうだ」という伊藤さんの思いやりが”魔法の温度”に導いた。
 神が微笑んだ、と言うべきだろう。(p48)