現場から発想、設計図はつくらない

『図解これならできる 山を育てる道づくり』大内正伸 田邊由喜男 監修

 今から約一〇年前、田邊さんは高知県の旧大正町で農業の基盤整備の仕事に従事していた。その後、林務に配属された。配属されて、補助金を投入しながら目に見えた成果があがる農業関係に比べ、お金を投入しているのになかなかよくならない、伐り捨て間伐のみで換金できない林業というものに愕然としたという。これを打破するには「とにかく山に道を入れて木を出すしかない」と考えた。それが作業道づくりの出発点だった。
 田邊さんは代々の山林を持つ高知の山村の生まれであり、山は幼少の頃から生活の一部である。バイクや車などの乗り物が大好きで、高校生のときにはすでにバイクで北海道を旅するほどの行動派だった。作業道づくりを思い立つと、全国の林道づくりの現場を訪ね歩き、ときに教えを乞い、その利点を吸収して独自に改良と工夫を重ねていった。(p15)


 作業道づくりは、図面や数字を排除することで、極端なコストダウンが可能になる。一般の土木工事では、まず図面が必要になる。そのために測量が必要になる。描かれた設計図から数字を拾って(たとえば土工なら移動する土量の体積を計算・集積する)、作業単価をかけ算する。その総体で工事費を出していく。そして図面通りにできているかどうか、最終的には検査が必要になってくる。
 しかし、これを作業道づくりでやると、とたんに仕事のスピードが鈍る。そして事務仕事が煩雑になり、その手間で結果的に単価がどんどん跳ね上がっていく。そもそも、地形図と実際の山の地形は合致しないことが多いのだ。
 また、雨水排水を合理的にするために、意識的にアップダウンをつけたり、道の傾斜を変えたりする。これも図面では指示できない。バックホーのオペレーターが自分の感覚で自在にアレンジしなければならない。
 一般に技術者は前例や数値にこだわる。そうしないと伝わらないような気がするし、いざというとき(失敗したとき)数字に逃げることができる。設計図がないと行政の人は不安になる。(p16)


 田邊さんはまず理詰めでコストダウンの方法を考えた。集材・運材の機械にかかる経費、それに見合う道幅や勾配。一日に何㎥の材を出せるか。どのように人員を配置したら理想的なのか。
 そして徹底した現地主義、経験主義で、失敗を繰り返しながら、独自の手法にたどりついた。巻き尺も測量道具も持たず、感覚で「どこに道をつけたらいいか」を身体に叩き込んだ。それを自分の言葉で作業者に伝えて、後継者を養成しているのである。(p17)