天然の針葉樹林

『図解 これならできる山づくり』鋸谷茂 大内正伸

 ところで「屋久スギ」や「木曽ヒノキ」「秋田スギ」などわが国を代表する天然の針葉樹林を見て、「不健全な森林」という人はいない。実際にこれらの森林は雪折れや風に強く、多少ダメージを受けても次の木が育って、森を短い間に”修復”してしまう復元力をもっている。
 では、こうしたバランスのよさは何によってもたらされるのだろう?
 実はこれらの天然林は針葉樹林とはいいながら、上層のスギやヒノキに混じって広葉樹が繁り、中・下層にも多種類の広葉樹とスギ、ヒノキの幼樹が育っている。また、林床にはシダ類やコケ類が繁茂するなど、多様な植生が混在した森になっている。こうした環境では多くの生き物が養われる。動物や昆虫、微生物・菌類などが共生し、お互いに養分を与え合いながら物質循環を機能させている。ここでは森はそれだけで自律し、高度な公益的機能も発揮できるのである。(p31)


 同じ針葉樹林だが、一方は健全で多様な森林機能を発揮し、一方は現在抱えきれない課題を背負っている。今の人工林の、森としての機能回復は、天然の針葉樹林の姿を手本にした上・中・下層の植生を取り戻すことにある。健全な森の見本は天然林の生態系と考えるとわかりやすい。(p32)


 なかでも大事な”中層木”
 上・中・下層の植生のなかでも、二番手となる中層木の役割はことに重要である。この中層木の重要性を見事に証明した例が一九七〇年代から全国的に大発生した松くい虫による被害林である。
 一九七〇年代以降、西日本を中心に各地でマツ林が松くい虫の大きな被害にあっている。マツ枯れの山がテレビ画面などに映し出され、社会問題にもなった。しかし、マツ枯れの被害が広く伝えられる割に、そのために山が崩れたとか、土砂が流出したなどの例はあまり聞かれなかった。また事実、松くい虫でマツは枯れてもほとんどの山は崩れなかったのである。なぜかというと、多くのマツ林にはナラ、シデ、カシ、シイ、タブノキといった高木性の陰樹が中層木として育っていて、マツが枯れるとこれらが大きく根を張って、マツがそれまで果たしていた機能をバックアップしたからである。(p33)


 過密な林分と下層植生豊かな山は両立しない。木材生産の視点ではすばらしく手入れされた山も、植生的には「不健全な森林」に入る場合がある。これを甦らせようというのが私の提案である。(p35)