これがスギ花粉を飛ばさない森だ

『花粉症は環境問題である』奥野修司

 スギを植えても採算がとれないのなら、有用材としての用途はあきらめ、伐採したあとに土地本来の樹種を植えてはどうか、という意見がある。植物の遷移を考慮すると、なるほどと納得させられる。……
 それより、ぼくは、スギ花粉をゼロにする必要はないと思っている。
 一般的に、花粉飛散シーズン中にガラス板1平方センチメートルに付着した花粉の個数が、1000個を切ると症状が軽くなるといわれる。つまり、花粉の飛散量を1000個以下にすれば、スギがあってもいいのだ。もっとも、それにはどの程度のスギを減らせばそうなるのかまではわからない。(p166)


 そこでぼくは、いまあるスギを全部伐り倒すようなことをせず、なんとか花粉を飛ばないようにする方法はないだろうかと、石塚さんにいろいろと質問をした。
 「間伐すれば飛ぶ花粉は少なくなりますか」
 ぼくは石塚さんに尋ねた。
 間伐しないと、スギは種を保存するために、たくさんの花粉を飛ばすのだという噂がまことしやかにささやかれていたからだ。
 それに間伐をすれば、スギの絶対量が減るのだから、疑いようもなく花粉は減るものだと思っていた。ところが、石塚さんの返事は意外だった。
 「われわれも本数を減らせばいいと思ったのですが、予想に反してそうならなかったんです。スギは日光にあたらないと花粉をつけないのですが、間伐をすると、樹冠が開いて日光が差し込んできます。するとスギは、下のほうまで花粉をつけるんです。つまり、適度に間伐したところほど、花粉が増えるというわけです。逆に間伐しないスギ林は、樹冠に花粉をつけても、下は真っ暗ですから花粉をつけないんです」
 どうも間伐は逆効果をもたらすらしい。……
 だからといって間伐はよくないという意味ではない。石塚さんは何度も強調された。
 いくつか専門用語が出てくるが、およその仕組みがおわかりいただけたと思う。
 手入れされないと、日光が下のほうまであたらず、花粉が形成されないのだから、種の保存のために大量飛散など起こりえない。つまり、間伐しないで放置されたスギ林は大量の花粉を飛ばすという噂はウソだったのだ。(p167)


 でも、これはおもしろいとぼくは思った。日光があたらないとスギが花粉をつけないのは、光合成量が不足するからだろう。夏の日照不足が続くと、翌年の花粉の量が少なくなると言われるのも、この理屈にあっている。
 これは最大のヒントだと思い、ぼくは石塚さんにさまざまな質問をあびせた。そして、花粉を減らして森を再生する方法を、ぼくなりにこう考えたのだ。
 まず治山治水のために、本来植えるべきでなかった斜面のスギは広葉樹に植え替える。その際、土砂の流出を防ぐために、いっせいに伐らず、徐々に植え替えることだ。
 花粉を減らすには、とりあえず間伐をする。通常、間伐は3本に1本間引くのだが、花粉を減らすにはそれ以上間引いてもらったほうがいい。ただし、そのままだと花粉が増えるから、同時に枝打ちをしなければならない。これだけでも飛散する花粉は激減するのではないだろうか。
 そして間伐をしたあとに、広葉樹を植えていく。近くに広葉樹の森があれば自然に生えてくるだろう。できることなら、成長の早い広葉樹を意識的に植樹したほうがいい。ただ、先にも述べたように、ゴボウ根の広葉樹は移植がむずかしい。
 広葉樹の植え方については、宮脇昭さんが『鎮守の森』で書いているように、シイ、カシ、タブノキなどの大木からドングリ(種)を集めて苗床にまき、翌年、芽が出たらポットに移植し、幼苗が30~50センチになったら移植するという方法がある。
 コストの面を考えるなら、自然に落ちた種などで広葉樹を広げるのがベストかもしれない。もっとも、ツル性植物などでジャングル状になったときは手を入れる必要があるだろう。石塚さんは言う。
 「広葉樹は成長が早いから、スギよりも高くなって、スギを覆うようになります。そうするとスギは広葉樹の日陰になって雄花をつけなくなります。また、花粉を飛ばしても、広葉樹に遮られて、外まで飛ぶ量が少なくなるでしょうね」
 これが、「花粉症のない森づくり」の最短で最良の方法なのだ、とぼくは思う。(p169)