生物ろ過が水をおいしくする

『究極の田んぼ』岩澤信夫

 田んぼがなぜ浄水場になるか、お話ししましょう。皆さんは井戸水や山裾に湧き出る清水は、山や岩や砂が水をろ過し、きれいな水になっていると思ってはいませんか。一見そのように見えるのですが、砂の中を通過すると、塵はろ過されますが飲み水にはなりません。水がきれいになり、飲んでも安全になるには、意外にも生きものが関与しなければなりません。生物ろ過という言葉をご存じでしょうか。それには、緩速ろ過という同義語があるのですが、専門用語は緩速ろ過です。共に水道用語です。(p103)


 実は日本では戦前、水道は、すべてこの緩速ろ過の水だったのです。このメカニズムはまず、沈殿池に川の水を引き、上澄みの水をろ過池に流し込みます。ろ過池の砂の上には、太陽光が入るので珪藻の一種メロシラが発生します。メロシラは水中で光合成をして酸素を吐き出します。この酸素によって砂の表面には、多くの生きものが繁殖し、バイオマス(生物資源)をつくります。原水中にチッソやリンなどの栄養があればあるほど、メロシラは栄養分を取り込み、増殖して、酸素供給をします。水の中の有害物質は、土壌生物や微生物の餌食になり、コレラ菌やO157などの有害菌も、全部微生物群が捕まえて食べてしまいます。残りの塵を、砂でろ過してきれいな水にするのです。水の流れを、この微生物や土壌生物が流されない速さの、ゆっくりとしたスピードで通過させるために、緩速ろ過といわれたのです。(p104)


 この生物ろ過と反対のろ過方式を、「急速ろ過方式」といいます。簡単に説明すると、沈殿池に沈殿剤を入れて薬で塵などを沈殿させ、浄水池にはカルキなどの殺菌剤を投入し、薬で殺菌して、それまでの何倍ものスピードで砂の中を通過させる。これでも消毒が足りないので、オゾンや活性炭を使う「スーパー急速ろ過」という方式を採っています。「急速ろ過方式」は戦後のアメリ進駐軍マッカーサー元帥の置き土産で、水道法を改正して、薬物処理をしたまま、アメリカへ帰ってしまったのです。それまでの生物ろ過方式と比べると、急速ろ過はメンテナンス料が高く付き、水道料金も高くなり、多くの水道局員が必要になります。経費はいくらかかっても、水道料金に上乗せすれば、自治体の懐は痛みません。しかし、緩速ろ過の浄水場は、つくると100年も200年も長持ちして、人件費もいくらもかからなくなり、水道局が成り立ちません。係りを置くだけでよく、水道料金はタダに近付くでしょう。これも大きな勘違いなのですが、金魚が棲めないような水に高いお金をかけて、人間が飲まなければならないとは、農薬の話とどこか似ていませんか。(p105)


 大阪と東京につくられたスーパー急速ろ過方式の浄水場は、とんでもない高額な設備になりました。何しろ一基つくるのに1000億円近い設備費がかかるのです。お金のある自治体しかつくることができません。しかも、毎年膨大な維持費がかかります。(p106)