田んぼの生きもの

『究極の田んぼ』岩澤信夫

 コイやフナによる農法は、水が清流で、栄養の少ない田んぼでは成功するでしょう。水源に栄養があり餌が多い田んぼ、例えば利根川下流部に位置する田んぼでは、なかなか成功しません。不耕起移植栽培の田んぼでは、コイなどはコロニー(集団)をつくり、土を30センチメートル以上も掘り下げ、餌探しも数メートルの範囲で終わってしまいます。餌が豊富にある田んぼでは、横着になってしまうのかもしれません。もともと、コイやフナやメダカなどは、田んぼの生きものではありません。春になり産卵期を迎えると、「のっこみ」という現象を迎え、小川を遡上します。最終的には、落差の少ない田んぼを目がけて、産卵に訪れるのです。田んぼには川や沼と違い天敵が少なく、稚魚の餌が多いのです。田んぼで孵化した稚魚は、5センチメートルくらいになると川や沼に戻っていきます。最近ナマズがいなくなったのは、卵を産む田んぼに遡上ができなくなったからです。田んぼの排水路の多くは、1メートルも掘り下げられ、コンクリートの三面張りになってしまいました。(p31)


 このコンクリートを上れるのは、足に吸盤を持つアマガエルしかいません。しかも排水路の底もコンクリートです。昔の曲がりくねった小川と違い、直線になり、淀みもなければ草の生える隙間もありません。これでは小川を中心にした生きものは、生存の場を失ってしまい、貧弱な生態系になってしまいます。もちろん、ドジョウもメダカも棲めません。メダカが絶滅危惧種になった一番の原因は、田んぼと一体の生活圏に、コンクリートの壁をつくった基盤整備が原因です。この当時の法律には、環境問題や生きものに対する認識が欠けていたのですね。最近は軌道修正され、生きものたちへの配慮もされてきています。
 なぜ、コンクリートにして掘り下げたのかというと、田んぼが軟らかいと、鉄の塊の農機具が動けません。これでは機械化農業は成立しませんから、土中に集水管を埋設して、暗渠排水の設備を埋設したのです。長さが100メートルもある集水管は、落差が1メートル前後ないと地下水が流れません。土の排水路を1メートルも掘ったら、たちまち崩れてしまいます。それを防ぐために、コンクリートが使われているのです。(p32)