土の温度を測るわけ

『土の学校』木村秋則 石川拓治 幻冬舎文庫

 岩木山の山奥でふかふかの土に出会ってから、私は毎日のようにその山奥に通って、山の土と私の畑の土がどう違うのかを調べました。
 ツンと鼻を刺激する匂いのことはすでに書きましたが、もうひとつの違いは温度でした。山の土は掘っても掘っても温かいのです。畑の土でそういうことを感じたことはなかったから、これはもしかしたらと思って温度計を買ってきて、土の温度を測ってみることにしました。
 温度計は小学校の理科室にあるような、ガラス棒の中に赤いアルコールの入っているごく普通のものです。割れるといけないので、段ボールに挟んでいつも持ち歩いて、一時期は暇さえあれば土を掘って温度を測っていました。土を掘り、巻き尺を当て、10センチごとに温度を測って記録をつけるのです。
 山の土と畑の土の違いは、なんといっても温度です。山の土は掘っても温度がほとんど変わらず温かいのに、畑の土は掘っていくと温度が急激に下がってしまうのです。
 山の土は50センチの深さまで掘っても、地表面との温度差はせいぜい1度から2度程度でした。けれど畑の土はちょっと掘っただけですぐに下がるのです。場所や季節によっても差がありますが、10センチ掘っただけで6度から8度も温度が下がった畑もありました。
 どうして温度がこんなに違うのか。不思議だなあと思いました。そのとき思いついたのは、子供の頃、親父が上半身裸になって堆肥の切り返しをしていた姿でした。堆肥を掘り返すと、湯気が立ち上っていました。あの湯気は、藁を分解する細菌の発している熱です。そういえば山の土も、落ち葉や枯れ草などの有機物を、そこに棲む様々な生物の働きで分解することによってできていたのでした。
 山の土が温かいのは、おそらくは微生物の働きです。そこに微生物がたくさんいて活発に活動しているから温かい。畑の土の温度が低いのは、その反対に微生物の活動が鈍っているせいに違いありません。
 そのときは、あくまでもそうじゃないかなと想像しただけですが、その後、図書館に籠もって本を調べたり、杉山先生のような人に話を聞いたりして、まさにその通りだと確信するようになりました。
 人間のお腹の中に膨大な量の腸内細菌がいたり、植物の中に内生菌が生息していたりするように、土の中にもたくさんの微生物が存在し働いているのです。土そのものは人間やリンゴの木のように、生きているわけではありませんけれど、それでもやはりある種の生命活動をしているわけです。
 そういう意味では、土も生きているのだと思います。
 私が土の温度を測るのは、土の命を確かめるためなのです。(p45)