自然の中には善も悪も存在しない

『土の学校』木村秋則 石川拓治 幻冬舎文庫

 たとえその虫が、成虫も幼虫もリンゴの葉や実を食べる、どこをどう突っついても悪者の、正真正銘の害虫だったとしても、リンゴの木にとってためになることを最低ひとつはやってくれています。
 何だかわかりますか?
 それは、リンゴの害虫を食べてくれるいわゆる益虫の、食料になるということです。私たちリンゴ農家は、害虫をせっせと食べてくれる益虫に感謝しますが、その益虫の命を支えているのは実は害虫なのです。
 その害虫を滅ぼしたら、当然のことですが益虫も滅びます。害虫がいないなら、益虫もいらないと言うかもしれません。けれど、自然はそんな一筋縄でいく相手ではないのです。
 害虫というのは、つまりここで言えば食べられる側ですが、だいたいにおいて益虫、つまり食べる側よりも数が多く繁殖力も強いのです。リンゴ畑の害虫の中には、1年に何度も卵を産む種類がたくさんいます。そうでなければ、天敵に簡単に食べ尽くされてしまいますから。
 害虫をすべて滅ぼして益虫もいなくなった畑に、どこからか何かの拍子にその害虫がちょっとでも舞い戻ったらどうなるでしょう。
 なにしろ天敵の益虫はいません。害虫はどんどん繁殖して、あっという間に畑中のリンゴの木にとりついてしまうでしょう。
 それがつまり、かつて私の畑で起きたことです。(p109)