現在の日本の繁栄

『無[Ⅲ]自然農法』福岡正信

 戦後の日本ほど、急激に変貌した国家はなかったのではないだろうか。あの瓦礫の中から、経済大国が忽然として出現したのである。しかし、その裏面ではかつて民族の苗代と言われ、終戦時、国民の五〇%以上を占めた農山漁民が、二〇%以下に急減していた。器用で勤勉な農民の参加がなければ、とうてい都市の高層ビルも高速道路も地下鉄も存在しなかったと思えるのである。ひと口に言えば、現在の日本の繁栄は、農民の総土方化による、都市文明への奉仕によってもたらされた徒花と言えよう。
 戦後日本の高度成長は、幸運な機会にめぐまれ、賢明な政治家や実業家のリードによってもたらされたと思われているが、農民の側から見れば、農民の意識の変革に順応して農法が変わり、省力化され、あり余る農村労働力が都市に流出して、都市文明の繁栄がもたらされた、と見えるのである。
 しかし、問題はそのことより、文明の繁栄が、世の中に、幸いの種でなく禍いの種を播いただけであり、農民は自らの首をしめる努力をしただけであった、ということである。(p28)