住宅

『無[Ⅱ]無の哲学』福岡正信

 人間の心に発した疑惑の雲は、矛盾の輪を広げ、疑惑の嵐となって広がり、その解決に焦燥感の深刻化を招いてゆく。それが衣食住の発達の出発点となったのであった。
 人間の住居は、雨露をしのぐことができればすでに十分であった。ところが一応自己に目覚めて自らの手で、自己の身体を守ろうとして家を建てたとき、人間は我が身を守らねばならない不安におののく弱者へと転落していたのである。
 強固な立派な住宅の中に守られ、一歩も外に出なくても安楽な生活ができるようになったと人間が確信しているうちに、人間は心身ともに不健全な弱者となり、人間性を喪失した奇形的な人間へと転落してゆくのである。自然から離れ家族から離れ、核家族化が進む。個室が完備するにしたがい、閉鎖的になり孤立し、自閉症が進む。
 住の発達もまた人間の崩壊への前進を意味するものでしかないのである。石造りの堅固な西欧の個室では、自然と人間の対話が断絶するのは当然である。日本の木と紙、土と竹造りの家のほうが自然の外気と常に交流していて住み心地がよいのは当然である。自然を離れて家はない。(p370)