聞書第一 一一一

葉隠』山本常朝 神子侃 編著 徳間書店

 主人に諫言をするにも、いろいろのやり方がある。真に忠義の志からする諫言は、まわりに知られぬようにするものである。主人の感情に逆らわぬようにして、欠点をお直しするのである。たとえば細川頼之が将軍足利義満を補佐したようなやり方がよい。
 昔、殿様がご道中のおり、わきに立寄られたいと言い出されたことがあった。これをお年寄の某がきくや、一同に向って「それがしは一命を捨てて申上げるであろう。次々と予定がおくれているというのに、寄り道などはもってのほかのことである」「これにておいとま乞い申上げる」といって、行水をし、白かたびらを着用して御前に出ていったが、ほどなく退出してきて、また一同に「拙者の申し上げた儀を、お聞きわけいただき本望至極、皆さまに二度お目にかかれたのは望外のしあわせである」などと自慢げにいった。
 このような言動は、すべて主人の欠点を大っぴらにし、自分の忠義ぶりを宣伝してその名声をあげようとするものだ。よく他国から召抱えられたものに見ることである。(p94)