藤壺

『「源氏物語」と「枕草子」』小池清

 八、九歳の幼い光源氏の眼前に、若くて美しく、新しい母が登場する。その人の名は「藤壺」である。
 物語を胸をはずませて聞きつづけていた中宮彰子は、ハッとした。いきなりわが名を耳にしたからである。『源氏物語』の外側の現実世界で、当時、「藤壺」と呼称されている人物は、中宮彰子その人であったのだ。……
 紫式部中宮となった彰子のもとに出仕したのは、寛弘二年(一〇〇五)十二月二十九日であったから、彰子はすでに十八歳になっている。(p89)