高原の星空

本居宣長(上)』小林秀雄 新潮文庫

 「源氏物語」、特にその「後篇たる宇治十帖の如きは、形式も描写も心理の洞察も、欧洲近代の小説に酷似し、千年前の日本にこういう作品の現われたことは、世界文学史の上に於て驚嘆すべきことである」。これは、昭和九年に発表された「文学評論」のうちにある、正宗白鳥氏の言葉だ。……
 「小説の世界は広い。世は、バルザックドストエフスキーの世界ばかりではない。のんびりした恋愛や詩歌管絃にふけっていた王朝時代の物語に、無限大の人生起伏を感じた。高原で星のきらめく広漠たる青空を見たような気がした」(「最近の収穫」)と。(p208)