冗談

源氏物語玉の小櫛 物のあわれ論』本居宣長 山口志義夫 訳

 『紫式部日記』に、

 左衛門の督【公任卿】が、「失礼ですが、この辺りに『若紫』はおられますか」と(私を)お探しになる。「源氏に似ていそうな人もお見受けしないのに、ましてやどうしてかの上(紫の上)がおいでになるもんですか」と思ってじっと聞いていた。

 と言っている。この日記の文につけても、ゆかりの説が勝っていると思われるのである。その訳は、ゆかりの説による時は、「紫」という名は、かの紫の上とは関係がない事になるが、それに準えておっしゃる事こそ面白いのである。一般に冗談というものは、思いがけない事を目新しく関連付けて言うことをこそ面白みとする。もし(「紫」の名が、)紫の上の事をよく書けている事に由来する名であるとしたら、戯れて「若紫」とおっしゃった事に何の目新しさがあるだろうか。(p11)