父子相伝

『決定版 三島由紀夫全集34』

 わが育児論

 理想的な父親の教育とは、父子相伝の技術の教育であつた。そこに父親といふものの意味があつた。漁師の父親が、息子に、縄のなひ方から、櫓のこぎ方、網の打ち方、などをだんだんに教へてやる。時には、わざと教へないで、息子に危険を犯させて自得させる。そして父親の死後、息子は若かりし日の父親そつくりの、村一番の、逞しい、熟練した漁師になる。舟を漕いで沖に向ふとき、朝焼けの空の雲の一つが、人の顔のやうに見え、その顔から、父親のきびしい、しかし温かな面影を思ひ出す。……(p84)