素人の文章が好き

『決定版 三島由紀夫全集39』

 川端康成氏に聞く  川端康成 中村光夫

 中村 逆に、いままで書かれたなかで、気に入ってるというような小説は。

 川端 それはちょっと待ってくださいね……まあ「十六歳の日記」と「雪国」ですかな。

 中村 ………。しかし「十六歳の日記」というのは、あれを書かれたときは、無論小説だと思っていらっしゃらなかった……。

 川端 ええ、そんなことは全然……。

 三島 ハハー、それだから……。

 川端 十六歳のころ小説家になろうとは、思っていたですがね。これを後に小説として出す気持はなんにもなくて書いていますが。

 三島 川端さんが、いろいろ綴り方がお好きだったり、素人の文章がお好きということは、ご自分の「十六歳の日記」がお好きということとなにか関係が……

 川端 まあたいていの小説に、あとでも、書いているときにはとくにそうですけれども、いやなものがあるんですよね。それがまあないですね、「十六歳の日記」には。

 三島 川端さんがいやだとおっしゃるのは、小説家としてのご自分がいやなんですか、もっと奥底にある自分の存在がいやなのですか。

 川端 そうでしょうね、そのあとのほうですか。

 三島 「雪国」もそういういやさのない……。(p382)