食糧難

『決定版 三島由紀夫全集40』

 剣か花か――七〇年乱世・男の生きる道  野坂昭如

 野坂 こういういい方は、三島さんはあまりお好きじゃないかもしれないけれども、いまの連中がいちばんいけないのは、戦争中とそのあとの食えないという状態を知らないということだと思うのですね。

 三島 それはそうだね。ぼくだって、イモをリュックサックに背負って、おやじといっしょにかついで帰ってきてね。あのころはよくおなかをこわしたもんだけれども、家にあと百メートルというところで、腹が痛くなって、リュックサックを放り出して帰りたいのだが、そうしたらだれか持っていくから放り出せない。死ぬ思いをして家まで持って帰ったことがあるね。

 野坂 全学連は絶対的食糧難というのを知らない。こっちはあまり食えない状態を知っているものだから、この程度食えればいいじゃないかという感じがするんですけれども、連中はいまより少し食える状態があったら、簡単にそっちへいくんですね。あの連中の転向のすばやいこと。それはけっしていけないとはいわないけれども、名目をうまく見つけて、自分の転向を正当化するのにたけてますね。東大の医学部の連中、なにも国家試験受けなくたって医者は医者ですよね。(p604)