人類平和の理想に逃げた

『決定版 三島由紀夫全集40』

 三島由紀夫 最後の言葉  古林尚

 三島 このあいだ、ある人がスウェーデンの残虐行為査問委員会の情景を新聞に書いていたんですが、ベトナムの農民が負傷してホータイ姿で証人台に立つ。それがボロボロの着物をまとっているんです。ところが、その農民に同情している委員会のメンバーときたら、いい洋服を着こんで、高価な犬を連れている中年の紳士というわけです。彼らは熱心に農民の訴えを聞いて、しきりにけしからんことだと同情する。その情景に何とも言えない違和感が感じられたと書いてあったんです。こんなことになっているのも、ぼくはスウェーデンの政治体制に問題があると思うんです。スウェーデンは百五十年前にロシヤとの戦争で負けた。その傷を回復しなかったから、そういう、つまり相対主義の軟弱な国になったとぼくは見ているんです。あそこでは国民精神というのを無くしたかわりに、人類平和の理想に逃げたんですよ。(p755)