中道を行かなければなりません

『サド侯爵夫人・わが友ヒットラー三島由紀夫

 クルップ どんな革命ごっこも……。もう二度と革命を夢みる者は出ては来るまい。革命の息の根が止められた今日、軍部はこぞって君を支持している。君ははじめて天下晴れて大統領になる資格を得たのだよ。こうなくてはならなかった。

 ヒットラー (クルップを伴って室内に戻り、クルップに椅子をすすめつつ)あの銃声が、クルップさん、ドイツ人がドイツ人を射つ最後の銃声です。……これで万事片附きました。

 クルップ (椅子にゆったりと掛けて)そうだな。今やわれわれは安心して君にすべてを託することができる。アドルフ、よくやったよ。君は左を斬り、返す刀で右を斬ったのだ。

 ヒットラー (舞台中央へ進み出て)そうです、政治は中道を行かなければなりません。

                                 ――幕――(p218)