計画要綱

奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫

 勲は過去へ思いをはね戻すこんな暗い梃子を心からもぎ取って、計画書を草の上へひろげた。
 「一、決行日時   月   日   時
  一、計画要綱
 本計画の目的は、帝都の治安を攪乱し、戒厳令を施行せしめて、以て維新政府の樹立を扶くるにあり。われらはもとより維新の捨石にして、最小限の人員を以て最大限の効果を発揮し、これに呼応して全国一せいに起つ同志あるを信じ、檄文を飛行機より散布して、洞院宮殿下への大命降下の事実ありたるを宣伝し、宣伝をしてやがて事実たらしめんとするものなり。戒厳令施行を以てわれらの任務は終り、成否に不拘、翌払暁にいたるまでにいさぎよく一同割腹自決するを本旨とす。
 明治維新の大目標は、政治及び兵馬の大権を、天皇に奉還せしむるにありき。わが昭和維新の大目標は、金融産業の大権を、天皇に直属せしめ、西欧的唯物的なる資本主義及び共産主義を攘伐して、民を塗炭の苦しみより救い、炳乎たる天日の下、皇道恢弘の御親政を冀求し奉るにあり。(p267)