2018-02-26から1日間の記事一覧

バイヨン大寺院

『癩王のテラス』三島由紀夫 中公文庫 解説 宗谷真爾 人間のメタフィジカをテーマとしていることは、末尾における「精神」と「肉体」との対話を読めば納得することができよう。そして氏は、きわめて感動的な肉体への賛歌によってこのドラマの幕を閉じている…

中道を行かなければなりません

『サド侯爵夫人・わが友ヒットラー』三島由紀夫 クルップ どんな革命ごっこも……。もう二度と革命を夢みる者は出ては来るまい。革命の息の根が止められた今日、軍部はこぞって君を支持している。君ははじめて天下晴れて大統領になる資格を得たのだよ。こうな…

天人五衰

『天人五衰 豊穣の海(四)』三島由紀夫 「手紙は御執事宛に差上げておきましたが、お目をおとおし下さいましたでしょうか」 「はい。拝見いたしました」 そこで言葉は途切れ、御附弟はそれをしおに、門跡をのこして消え入るように去った。 「お懐しゅうござい…

『天人五衰 豊穣の海(四)』三島由紀夫 その生涯を通じて、自意識こそは本多の悪だった。この自意識は決して愛することを知らず、自ら手を下さずに大ぜいの人を殺し、すばらしい悼辞を書くことで他人の死をたのしみ、世界を滅亡へみちびきながら、自分だけは…

固有の思想

『暁の寺 豊穣の海(三)』三島由紀夫 すぎし大正はじめの剣道部の精神も、一度もそれに与らなかった本多をも含めて、一時代を染めなした紺絣の精神だったから、今となっては本多も自分の記憶の青春を、それに等しなみに包括させることに吝かでなかった。 これ…

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 「正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った」 『奔馬』のこの最終行は、あまりにも名高い。しかし主人公が志を果して海岸で切腹したのが深夜だったことは、とかく忘れられがちである。太陽が昇る時刻ではな…

神風連と恋愛の情熱

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 さて、『神風連史話』の読後感に話を戻しますと、現在三十八歳の私は、ふしぎにも、この非合理に貫ぬかれた歴史的事件の抒述に感動を以て接することができたのです。私がすぐ思い起したのは、松枝清顕のことでした。彼の情…

火箸と火鉢

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 『あの人は火箸が熱くて触れないというので、火鉢だけに触ろうとしているんだ。しかし火箸と火鉢とはどこまでもちがうんだがなあ。火箸は金、火鉢は瀬戸物。あの人は純粋だけど、瀬戸物派なんだ』(p125)

欠食児童の影

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 二十万人にのぼる農漁村の欠食児童の影は、都会の学生の背後には揺曳していず、「欠食児童」という言葉は、喰いしん坊をからかう流行語にしか使われない現状から、骨にしみ入るような怒りの声を聴きだすことは難かしかった…

計画要綱

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 勲は過去へ思いをはね戻すこんな暗い梃子を心からもぎ取って、計画書を草の上へひろげた。 「一、決行日時 月 日 時 一、計画要綱 本計画の目的は、帝都の治安を攪乱し、戒厳令を施行せしめて、以て維新政府の樹立を扶くる…

奔馬

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 裁判長 それほど抽象的でなくだな、多少長くなってもよいから、お前がどう感じ、どう憤り、どう決意したか、という経過を述べてみよ。 飯沼 はい。私は少年時代は剣道に専念していたのでありますが、明治維新のころは剣を以…

刺殺

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 蔵原は煖炉にむかって安楽椅子に身を埋めたらしく、窓からはその禿げ上った額が、煖炉の焰につれて、ゆらめくように見えるだけになった。傍らの茶を啜りながら、本でも読んでいるのか、それとも黙想しているのかと思われる…

日輪は瞼の裏に赫奕と昇った

『奔馬 豊穣の海(ニ)』三島由紀夫 勲は湿った土の上に正座して、学生服の上着を脱いだ。内かくしから白鞘の小刀をとり出した。それが確かに在ったということに、全身がずり落ちるような安堵を感じた。 学生服の下には毛のシャツとアンダー・シャツを着ていた…